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# 幕末に吹く新時代の風! 神社にまつわる時代小説『ゆめつげ』

 4、5年前に「時代小説ブーム」と聞いた気がするのですが、今も続いているみたいですね。書店に行くと時代小説を集めたコーナーが設置されていますし、新刊も平積み、棚にあっても面出し率が高い。もともとブームだったところに、歴史ブームも加わっていよいよ磐石というところでしょうか。
 池波正太郎、柴田錬三郎、藤沢周平、山田風太郎、司馬遼太郎といった時代小説・歴史小説の大御所に加えて、最近では『バッテリー』のあさのあつこが『弥勒の月』『夜叉桜』を、SF・ライトノベル作家で『蒼穹のファフナー』『シュヴァリエ』『ヒロイック・エイジ』のアニメの原案・脚本でも知られる冲方丁(うぶかた とう)が『天地明察』を発表するなど、意外な作家の参戦もあって、目が離せなくなってきました。

 私はと言うと、時代小説はめったに手に取りません。司馬遼太郎の歴史小説はそこそこ読みましたが、時代小説については、記憶にあるのは平岩弓枝の『御宿かわせみ』シリーズを何冊かと宮部みゆきの『初ものがたり』くらい。事務所の所長には「藤沢周平くらい読め」とよく言われるんですけどね。藤沢周平の美文は、一度は触れておくべきなのだとか。


 さて、年末の帰省のおり、新幹線の中で読もうと持ち込んだのが、畠中恵の『ゆめつげ』(角川書店/角川文庫)でした。氏の代表作『しゃばけ』シリーズのうち『しゃばけ』『うそうそ』がTVドラマ化されたので、ご存知の方も多いでしょう。本書『ゆめつげ』は『しゃばけ』シリーズではありませんが、やはりファンタジーよりの時代小説です。

 黒船来航から10年を数えた、江戸時代末期のお江戸は上野。その片隅に、宮司の父親と禰宜(ねぎ)の兄弟が切り盛りする小さな神社──清鏡神社がありました。兄の弓月はのんびりとしたお人好し。しっかり者の弟・信行は、兄のトボけた言動にツッコミを入れつつも、そのつかみどころのなさを案じています。
 そんなある日、白加巳(しらかみ)神社の権宮司・佐伯彰彦が訪ねてきました。極上の社格を誇る神社の権宮司の来訪を訝しむ父子に、彰彦は夢告を依頼します。実は清鏡神社にも小さなウリがあり、それが弓月の夢告こと夢占いでした。精神統一することで神鏡に夢を結び、それを読み解くのです。ただしその神託は的を外してばかりで、故に氏子しか知らない「小さなウリ」だったのです。
 彰彦に見せた夢告も、的外れな結果に。しかし彰彦は白加巳神社でもう一度占ってほしいと言います。本殿の修理にも事欠く清鏡神社。弓月は屋根の修理代と引き換えに、大物札差(ふださし)の行方不明の子どもについて占うことに……。

 既読の『しゃばけ』でも感じましたが、畠中氏はまず導入部分が上手い! 禰宜の兄弟が辻斬りに襲われる、たった5ページの緊迫感に満ちたシーンのなかで、黒船来航後の幕末であること、浪士による辻斬りが横行していたこと、そして禰宜兄弟の人となりまで、読み手に伝えてしまいます。
 今は何年何月で、場所はどこで、その時代の世情はどうで、登場人物の容姿性格はこうで、などと説明文で行を埋めなくても、事件と同時進行で物語世界を表現してしまえるという、これはいいお手本です。

 また、古い言葉遣いやセリフ回しを多用していないにもかかわらず、江戸時代に生きている人が話しているように感じられるところもさすが。それは、登場人物の立ち居振る舞いや価値観が、現代ではありえない、時代という枠の中にきっちりはめられていてブレがないから。また、建物や小物、着物などの風俗に、時代が吟味されているから。
 私は江戸時代をよく知りませんから卑近な例で言いますと、昭和40年代前半までの低所得者向けアパートで、部屋の電話が鳴る描写はおかしい。当時は電話加入権が高額だったので、たいていの店子は電報か大家の電話を使っていましたから。今は希少になったであろう「呼び出し電話」ですね。
 そういうレベルでの「あれ?」と引っかかるところがないというのは、その文章が書かれるまでに膨大な調査があったということ。畠中作品のいいところは、調査した事柄をいちいち得々と書いてしまわないことですね。知識も情報も文章をつくるための材料に過ぎず、どんどんそぎ落として、知識とも情報とも感知できないように埋没させてしまう。「引き算の文章づくり」は、つい衒学に走る私などは見習うべきところです。

 とは言っても、時は幕末、舞台は神社です。当時の神仏習合の実態、やがて明治政府が発布する「神仏判然令(神仏分離令)」や神官・社家の世襲を禁止し、政府任命の神職が神社に奉仕することになる「太政官布告」を予感しての、神職たちの不安や動揺がかなりリアルに描かれていて、思わぬところで勉強になりました。
 幕末の「浪士の辻斬り」も、これまでは新選組や新徴組と尊皇攘夷浪士や不逞浪士との戦いの狭間で起こったことのように感じていました。でも辻斬りに襲われた弓月と信行の必死の逃走に、身を守る武器を持たない町人にとっては、当然のことながら、恐怖以外の何ものでもなかったよなあと見方が変わりました。

 物語が進むにつれて、弓月から立ち上る血臭が強くなってきます。弓月が夢告をしないと事態が進まないという、ストーリー的に平板に陥りそうなところ、血の色と匂いがおどろおどろしくも危機感を高めていきます。
 白加巳神社の付近で辻斬り浪人が消え、境内で人が殺される……。謎もどんどん増えますが、最初に提示された「行方不明の子どもの謎」が、敷かれた伏線の集束するところで解決されるのが気持ちいい(途中で◯◯トリックと気づきましたが、意外に思う部分もあって、得心の膝打ち!)。手馴れた物語構成は、まさに「信頼と安心のクオリティ」です。

 惜しむらくは、弓月と信行の兄弟のやり取りが物足りなかったこと。弓月の視点で書かれているので、他の登場人物について描ききれないのは仕方がないのですが。いちばん身近な存在で、頼りない兄を叱りつけながらも、その心のあり方を心配しているという(兄弟萌えにはたまらない)設定でもあるのだから、そのあたりをもう少し掘り下げてほしかったですね。弓月の思いの比重が彰彦に傾いてしまったのがちょっと残念。

 あと、白加巳神社の境内の見取り図が欲しかった! 小説を読んでいて、なにかしらの絵図が欲しいと思ったことなどありませんが、『ゆめつげ』に限っては「建物の位置関係がわからない」と頭を抱えてしまいました。参詣したことのある神社の記憶を呼び起こしながら、「拝殿がこのへんにあるとすると、庁屋はこの位置?」「水堀って、東殿とどういう位置関係?」などなど想像しましたが、見取り図があれば、この苦労は無用だったはず orz。

 ま、そんなことは枝葉末節。最後はサイキック弓月のパワー全開で、余韻のある引きもいい。時代小説入門に適した作品だと思います。未読の方は、ぜひご賞味あれ。


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