MY FAVORITE & RECOMMENDATION

映画、コミック、本から、お薦めものをピックアップ!

<< August 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
# スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | - | | category: - |
# ディック・フランシスの作品を宣伝してみる

 ディック・フランシスの小説をたとえるなら、現代の『アーサー王物語』だと思うわけです。
 アーサー王の「円卓の騎士」には、「湖の騎士」ラン スロット、ガウェイン、ケイ(アーサー王の乳兄弟)、「悲しみの子」トリスタン、「世界で最も偉大な騎士」ガラハッド(ランスロットの息子)、パーシヴァ ル(「白鳥の騎士」ローエングリンの父親)、ボールス、モルドレッド(アーサー王の息子)などなどが名を連ねています。朝から正午までは力が3倍になると いう豪傑や大変な毒舌家がいれば、不倫、二股、禁断の愛に走る者もいたりして、メンバーはなかなかに個性的。
 彼らが目指すものは、王の守護であったり、恋の成就であったり、聖杯の探求であったり、いろいろですが、思いは常に一途です。そして、その行動の根底を貫いているのが騎士道精神!
  まあ、アーサー王ファンにとってみれば、ランスロットはとんでもない裏切り者なわけですが、「最も誉れ高き最高の騎士」が騎士道と不義の恋の間で苦悩し、 結局は恋に殉じることになるのが一途といえば一途。その人気ぶりは、トランプの絵札、クラブのジャックになってしまったほど。

 フランシ スの小説の主人公たちも、職業、趣味、性格ともにばらばらで、上流階級に属する者から、商業活動の成功者、知識階級、中産階級、労働者階級とそれぞれ「住 む世界」も違います。目指すものも、守るべきものの守護であったり、恋の成就であったり、自信の回復であったり、退屈な日常を離れたスリルだったりするわ けですが、最終的には「自分という人間の器の確認」に帰結します。さらに、どの主人公の行動にも騎士道精神が感じられて、敵にまっすぐに挑んでいくその姿 には中世の騎士の面影が重なるよう……。
 この、帰結する部分が同じなところと、主人公全員が騎士的行動をとるところが、フランシスの作品がマン ネリと言われる所以なのですが、人気作家となった理由もそこにあるわけで。読み手が主人公の行動に共感を抱き、むしろカッコいいとさえ思い、読み終えて 「ああ、すっきりした」と思える作品を1年に1作というペースで生み出し続けたことに、フランシスの偉大さがあると思うのです。

 実際、 英国の男性を見ると、行動の基盤には未だに騎士道精神が息づいているんだなあと感じます。特に女性への礼儀とか、他人への親切とか、言動に誠実で、寛大で あろうとするところは、美徳だと思います。ただ、それらは自分に自信と余裕がないとなかなかできないところで、気位の高さも見え隠れするんですけどね。

  もうひとつ、特筆すべきは、歴史のなかで脈々と受け継がれてきた英国独特の階級意識で、フランシスは小説の登場人物たちの言動においてそれをみごとに描写 しています。そこは、ウェールズの騎手の家に生まれ、障害競馬の騎手となり、最多勝利騎手の栄誉を得て成功。さらにクイーンマザー(エリザベス王太后)の 専属騎手を務めることになったフランシスならでは、ですね。英国社会や英国気質を知る上でとても参考になります。

 フランシスの競馬ミス テリーは43作。そのうち、シッド・ハレーを主人公にしたものが『大穴』『利腕』『敵手』『再起』の4作、キット・フィールディングを主人公にしたものが 『侵入』『連闘』の2作。総勢39人の現代の騎士たちの活躍を、未読の方はぜひ目にしていただきたいと思います。

 2000年以降、作品が発表されなくなったので、覚悟はしていたんですけどね。'06年に息子さんとの共著で『再起』が、それからも『祝宴』『審判』『拮抗』と出版されたので、ほっとしたりしてたのですが……。
 訃報を聞いて「年齢的には大往生」と思いつつも、もやもやと気が晴れません。夏夕介に引き続いてだからかなあ。それとも、ここのところ名を知る方々の訃報が続くからでしょうか。切ないですね。 
 

JUGEMテーマ:読書
| comments(0) | trackbacks(0) | 20:11 | category: Books |
# ディック・フランシスの作品は永遠に私の愛読書です
 
 2月14日、ディック・フランシスが亡くなりました。89歳。英国の作家で、競馬ミステリーの第一人者。競馬騎手として活躍した後の作家転身で、それゆえに彼が競馬界を舞台にして書いた小説はリアリティと臨場感に溢れていました。今後、彼ほどの競馬ミステリー作家はおそらく現われないでしょう。

 最初に読んだのは『大穴』(早川書房/ハヤカワ・ミステリ文庫)でした。
 チャンピオンジョッキーとして名を馳せていたシッド・ハレーは、レース中の事故で左手を失い、引退を余儀なくされます。生きがいを無くしたシッドは、「愛想のいい幽霊」と形容されるくらい、なにごとにも関心をもたず、ただそこにいるだけの存在と化していました。
 現在の職業は、探偵社の競馬専門の調査員。その夜、やる気なく事務所の見張りをしていたシッドは、一発の銃弾に襲われます。それが体を貫通したとき、彼の心に火が点きました。ジョッキー時代、勝利のためには容赦なく非情になれた勝負魂の火が。シッドは、競馬場を次々に倒産の危機に陥らせている、土地買収の黒幕に挑んでいきます。
 以前にも書きましたが、『大穴』とその続編『利腕』でなにより気に入っているのが、シッドと彼の妻の父親(つまり義父)であるチャールズ・ロランドとの関係。お互いにクセのある性格を認め合い、才能を尊敬し合いながら、実の親子以上の親子関係を築いていく。頭のいいふたりの含みをもたせたやりとりが、く〜っとクるほどカッコいいんですよね。

 いや、シッドとチャールズに限らず、フランシスの描くメインキャラクターたちは誰も彼も理想が服を着て歩いているような大人の男で、言うことやることがいちいちカッコいいんです!
 たとえば、『興奮』で馬丁に身をやつした若き富豪ダニエル・ロークが、不正レースのカラクリを探りつつ、その過程で馬主の姉妹と知りあうところ。馬丁を使用人と蔑みながらしなだれかかってくる妹娘をきっぱり拒絶したり、淑やかなやさしさを見せる姉娘の危機を救ったり……。最後に正体を明かしたダニエルの洗練された男っぷりのよさと、姉妹それぞれの反応がおもしろくって、読後感が爽快なのです。

 あるいは、『混戦』のマット・ショア。ジャンボジェット機を操縦する花形パイロットだったマットは、ある事件で職を追われ、今は競馬場と競馬場を結ぶエアタクシーの操縦桿を握っています。
 失意の日々を送るマットは、飛行機爆破事件をきっかけにチャンピオンジョッキーのコリン・ロスとその妹と知り合います。不幸のなかに幸福を見出し、快活さややさしさを失わないロス兄妹と交流するうちに、マットは一度は失った他人への信頼や愛情を取り戻していきます。その兄妹が保険金詐欺の陰謀の渦中にあると知った彼は……。
 戦時中、空軍パイロットだったフランシスが書く操縦の描写がなんともカッコいい! 地上では「俺は人に踏まれ、泥拭いに使われるマットだ」と自嘲するほど不器用なマットが、空へ舞い上がったとたんに見せる匂い立つような男気。このギャップに惚れないヤツはいないと思うよ。

 ほかにも、「勝ち馬予想システム」というコンピュータプログラムを敵の手から守ろうとする『配当』の理知的で冷静沈着な物理教師ジョナサンと行動的でワイルドなウィリアムの兄弟や、従兄弟を襲った不幸の原因となった絵画の秘密を追う『追込』の馬専門の画家チャールズ・トッド、嫌われ者の競馬写真家の遺品の写真の謎を解こうとする『反射』のアマチュアカメラマンのフィリップ・ノアなどなど。
 みんな、なんらかのプロフェッショナルで、専門知識や会得した技術を武器にそれぞれの敵と相対していきます。一作ごとに職業も性格も社会的立場も違う、でも生き方も心意気もセリフもMan of Menな男たちが活躍するんだからたまりません! 一冊読めば、ハマること間違いなし!!

 私が英国に興味をもったきっかけは、間違いなくK.M. ペイトンの「フランバーズ屋敷の人びと」シリーズ(岩波書店/岩波少年文庫)です。でも訪れる前から英国の空気や人びとの気質を多少なりとも理解していたのは、フランシスの「競馬」シリーズを読み込んでいたからですね。

 事務所のフランシスファン仲間と「最近、新作見ないけど、ディック・フランシスってご存命だよね」とか、「息子のフェリックスとの共著ってことで『祝 宴』が出てるよ」とか、「『審判』出たよ!」とか、「『再起』がついに文庫化!」とか、おりおりにフランシス情報を交換していました。もうそんな会話を交 わす必要がなくなったことが寂しいです。
 冒頭から引き込まれてしまう、スリリングな物語の数々。男くさい魅力を振り撒く主人公と、主人公との心のつながりがツボ直撃の恋人や友人たち。きっちり引導を渡したくなる悪役たち。マンネリと評されようとも、「だが、そこがいい!」と主張したい読後の清涼感。
 馬のいななきが聞こえ、湯気が立つ体温まで感じさせる、競馬場や厩舎の描写力。それを駆使して描かれた英国の上流社会と下層社会、マスコミ界、ダイヤやワインの流通業界、パテントが絡む製造業界、諜報戦、絵画や不動産の取引などなど。その知識の広さと好奇心と探求精神の旺盛さに敬服しながら、自分の知識として吸収させてもらった、多種多様な「プロの世界」……。フランシス作品のチャームポイントは数えても数えてもキリがありません。
 たくさんの印象的なヒーローをそのペンから生み出してくださって、ありがとうございました。これからもずっと、あなたの作品は私の愛読書です。心よりご冥福をお祈り申し上げます。


 1月27日には、『ライ麦畑でつかまえて(The Catcher in the Rye)』のJ・D・サリンジャーが91歳で逝去されたんですね。そして、ディック・フランシス。20世紀がどんどん過去へ過去へと遠ざかっていくのを、ただ見送るしかないというのも心もとないかぎりです。
 レイ・ブラッドベリにはがんばっていただきたいと思う、今日この頃……。


JUGEMテーマ:読書
| comments(0) | trackbacks(0) | 07:33 | category: Books |
# 幕末に吹く新時代の風! 神社にまつわる時代小説『ゆめつげ』

 4、5年前に「時代小説ブーム」と聞いた気がするのですが、今も続いているみたいですね。書店に行くと時代小説を集めたコーナーが設置されていますし、新刊も平積み、棚にあっても面出し率が高い。もともとブームだったところに、歴史ブームも加わっていよいよ磐石というところでしょうか。
 池波正太郎、柴田錬三郎、藤沢周平、山田風太郎、司馬遼太郎といった時代小説・歴史小説の大御所に加えて、最近では『バッテリー』のあさのあつこが『弥勒の月』『夜叉桜』を、SF・ライトノベル作家で『蒼穹のファフナー』『シュヴァリエ』『ヒロイック・エイジ』のアニメの原案・脚本でも知られる冲方丁(うぶかた とう)が『天地明察』を発表するなど、意外な作家の参戦もあって、目が離せなくなってきました。

 私はと言うと、時代小説はめったに手に取りません。司馬遼太郎の歴史小説はそこそこ読みましたが、時代小説については、記憶にあるのは平岩弓枝の『御宿かわせみ』シリーズを何冊かと宮部みゆきの『初ものがたり』くらい。事務所の所長には「藤沢周平くらい読め」とよく言われるんですけどね。藤沢周平の美文は、一度は触れておくべきなのだとか。


 さて、年末の帰省のおり、新幹線の中で読もうと持ち込んだのが、畠中恵の『ゆめつげ』(角川書店/角川文庫)でした。氏の代表作『しゃばけ』シリーズのうち『しゃばけ』『うそうそ』がTVドラマ化されたので、ご存知の方も多いでしょう。本書『ゆめつげ』は『しゃばけ』シリーズではありませんが、やはりファンタジーよりの時代小説です。

 黒船来航から10年を数えた、江戸時代末期のお江戸は上野。その片隅に、宮司の父親と禰宜(ねぎ)の兄弟が切り盛りする小さな神社──清鏡神社がありました。兄の弓月はのんびりとしたお人好し。しっかり者の弟・信行は、兄のトボけた言動にツッコミを入れつつも、そのつかみどころのなさを案じています。
 そんなある日、白加巳(しらかみ)神社の権宮司・佐伯彰彦が訪ねてきました。極上の社格を誇る神社の権宮司の来訪を訝しむ父子に、彰彦は夢告を依頼します。実は清鏡神社にも小さなウリがあり、それが弓月の夢告こと夢占いでした。精神統一することで神鏡に夢を結び、それを読み解くのです。ただしその神託は的を外してばかりで、故に氏子しか知らない「小さなウリ」だったのです。
 彰彦に見せた夢告も、的外れな結果に。しかし彰彦は白加巳神社でもう一度占ってほしいと言います。本殿の修理にも事欠く清鏡神社。弓月は屋根の修理代と引き換えに、大物札差(ふださし)の行方不明の子どもについて占うことに……。

 既読の『しゃばけ』でも感じましたが、畠中氏はまず導入部分が上手い! 禰宜の兄弟が辻斬りに襲われる、たった5ページの緊迫感に満ちたシーンのなかで、黒船来航後の幕末であること、浪士による辻斬りが横行していたこと、そして禰宜兄弟の人となりまで、読み手に伝えてしまいます。
 今は何年何月で、場所はどこで、その時代の世情はどうで、登場人物の容姿性格はこうで、などと説明文で行を埋めなくても、事件と同時進行で物語世界を表現してしまえるという、これはいいお手本です。

 また、古い言葉遣いやセリフ回しを多用していないにもかかわらず、江戸時代に生きている人が話しているように感じられるところもさすが。それは、登場人物の立ち居振る舞いや価値観が、現代ではありえない、時代という枠の中にきっちりはめられていてブレがないから。また、建物や小物、着物などの風俗に、時代が吟味されているから。
 私は江戸時代をよく知りませんから卑近な例で言いますと、昭和40年代前半までの低所得者向けアパートで、部屋の電話が鳴る描写はおかしい。当時は電話加入権が高額だったので、たいていの店子は電報か大家の電話を使っていましたから。今は希少になったであろう「呼び出し電話」ですね。
 そういうレベルでの「あれ?」と引っかかるところがないというのは、その文章が書かれるまでに膨大な調査があったということ。畠中作品のいいところは、調査した事柄をいちいち得々と書いてしまわないことですね。知識も情報も文章をつくるための材料に過ぎず、どんどんそぎ落として、知識とも情報とも感知できないように埋没させてしまう。「引き算の文章づくり」は、つい衒学に走る私などは見習うべきところです。

 とは言っても、時は幕末、舞台は神社です。当時の神仏習合の実態、やがて明治政府が発布する「神仏判然令(神仏分離令)」や神官・社家の世襲を禁止し、政府任命の神職が神社に奉仕することになる「太政官布告」を予感しての、神職たちの不安や動揺がかなりリアルに描かれていて、思わぬところで勉強になりました。
 幕末の「浪士の辻斬り」も、これまでは新選組や新徴組と尊皇攘夷浪士や不逞浪士との戦いの狭間で起こったことのように感じていました。でも辻斬りに襲われた弓月と信行の必死の逃走に、身を守る武器を持たない町人にとっては、当然のことながら、恐怖以外の何ものでもなかったよなあと見方が変わりました。

 物語が進むにつれて、弓月から立ち上る血臭が強くなってきます。弓月が夢告をしないと事態が進まないという、ストーリー的に平板に陥りそうなところ、血の色と匂いがおどろおどろしくも危機感を高めていきます。
 白加巳神社の付近で辻斬り浪人が消え、境内で人が殺される……。謎もどんどん増えますが、最初に提示された「行方不明の子どもの謎」が、敷かれた伏線の集束するところで解決されるのが気持ちいい(途中で◯◯トリックと気づきましたが、意外に思う部分もあって、得心の膝打ち!)。手馴れた物語構成は、まさに「信頼と安心のクオリティ」です。

 惜しむらくは、弓月と信行の兄弟のやり取りが物足りなかったこと。弓月の視点で書かれているので、他の登場人物について描ききれないのは仕方がないのですが。いちばん身近な存在で、頼りない兄を叱りつけながらも、その心のあり方を心配しているという(兄弟萌えにはたまらない)設定でもあるのだから、そのあたりをもう少し掘り下げてほしかったですね。弓月の思いの比重が彰彦に傾いてしまったのがちょっと残念。

 あと、白加巳神社の境内の見取り図が欲しかった! 小説を読んでいて、なにかしらの絵図が欲しいと思ったことなどありませんが、『ゆめつげ』に限っては「建物の位置関係がわからない」と頭を抱えてしまいました。参詣したことのある神社の記憶を呼び起こしながら、「拝殿がこのへんにあるとすると、庁屋はこの位置?」「水堀って、東殿とどういう位置関係?」などなど想像しましたが、見取り図があれば、この苦労は無用だったはず orz。

 ま、そんなことは枝葉末節。最後はサイキック弓月のパワー全開で、余韻のある引きもいい。時代小説入門に適した作品だと思います。未読の方は、ぜひご賞味あれ。


JUGEMテーマ:読書
| comments(0) | trackbacks(0) | 05:05 | category: Books |
# 腑甲斐ないファンでごめんなさい……『XAZSA(ザザ)』

 仕事で資料として必要な雑誌のバックナンバーを探すために、渋谷のまんだらけと池袋のまんだらけとK-BOOKS、ついでにアニメイトを回りました。
 渋谷のまんだらけの近くにある古書店にもダメ元で寄ってみたら、探しているものはありませんでしたが、若木未生の 『XAZSA メカニックスD』(集英社/コバルト文庫)を発見しました。うわあ、出てたんだーっ! 奥付を見たら、2000年6月の発行。時期的に絶版になってる可能性もあるので、即確保。105円だもの。書店で見かけたときに買い直しても惜しくない値段です。

 シリーズものがほとんどの若木氏の作品のなかで、「ハイスクール・オーラバスター」シリーズを長らく追いかけていました。水沢諒くんが好きで好きで……。過去形なのは、徳間書店デュエル文庫から出た 『オーラバスター・インテグラル 月光人魚』を買い逃したからです。いつの間にやら出版されて、いつの間にやら絶版(重版未定)に。外伝とは言え、なんてこったい orz。
 でも、若木作品のなかでいちばん好きなのは短編連作の『XAZSA』なんです。ですから、久しぶりにザザ野ザザ太郎ことXAZSA(ザザ)や京平さん、真砂くん、シグマ、ゼロ、お嬢の物語を読んで、長く会ってなかった旧友に街で偶然再会したような、懐かしくもうれしい気分になりましたv 京平さんじゃないけ ど、「ひどく遅くなってごめん。俺は腑甲斐ないダンナで、二年も君を置き去りにしたけれど」(2年どころじゃねーっ!)なんてね。

 ギターを弾けなくなったギタリスト・早水京平が夜の都会で出会ったのは、「人間になりたい」と願う機械人間(マシノイド)、ザザだった。
 現代版『ピノキオ』か「ピグマリオン」かという感じですが、物語自体がふんわりと手のひらで撫でられるようなやさしさに満ちていて、なにかが癒されたような読後感があります。
 みんな、だれかのためになにかをしたいと思う。それぞれに想う人がいて、その人のために自分を変えようとまで思いつめて、でも一途すぎる想いはすれ違い、哀しみが生まれる。
  若木未生という作家は、現代の「寂しい若者」を描写するのがうまいと思います。自分が言ったことや行なったことを、自分だけの判断で「よかった」「悪かった」と決めつけてしまう。「自分が!こうしたからよかったんだろう」「自分が!こうしたから悪かったんだろう」。それを言われた、あるいはされた相手がどう思ったか尋ねて確認することもなく、「こうしてやったんだから、あの人はうれしいはずだ」と独善的な満足感に浸ったり、全能感を抱いたり、「たぶんあの人はこう思っただろう」「自分のこと、嫌いになっただろう」「許してくれないだろう」と自己嫌悪・自己否定の深みにはまっていったり。まさにコミュニケーション不全と自意識過剰がつくりあげた、世界に<自分>しか存在していない「寂しい若者」たちが、彼女の作品には姿を変え、かたちを変え、多く登場し ます。

 「ハイスクール・オーラバスター」シリーズでは、それが時空を超えて続いてきたトラブルの根源だったりするので、相手を思いやる 気持ちのなかに「自分さえ犠牲になれば」「あの人の幸せこそ、自分の幸せ」という、突き詰めれば自己満足に帰結する感情がある以上、真の解決は遠いものに思われます。
 「オーラバ」に関しては、若木氏自身がたいへんな深淵にはまってしまったんじゃないかと、ひそかに思ってるんですけどね。「世界は不完全だから美しい」というところで、バランスを保っていくしかないんじゃないかな、とか。
 
  『XAZSA』においては、突っ走る少年少女の独り善がりの思い込みや自意識過剰をへし折る人物が登場します。生活能力ゼロで、職業不定で、元家出小僧 で、自分の「魂」であるギターを弾き続けるためなら人を泣かせても平気とうそぶく自称「冷たい人間」で、心に深い傷を負っている早水京平こそ、その人。こ の世に誕生して3年のザザとか、誕生したばかりのシグマとか、11歳の天才少女とかは、この飄々としていて、軽口が達者で、めったに本当の感情を見せない20代の青年にかかっては、ひとたまりもありません。主張は論破され、隠していた、あるいは気づかずにいた気持ちをきれいにすくい上げられてしまいます。
 こんがらがってしまった人間関係も、部外者の立場で見渡せば、もつれた根っこが見えてくるもの。そこをきちんと指摘して、真の想いに気づかせることができる京平の言葉がいちいちカッコイイのですv
  そうしてお子サマたちを諭すうちに、京平自身も自分の心の傷を癒していくところが最高にいい。失ってはいけないものを失った哀しみばかりで、自身も他人も見失っていた彼が、義弟の真砂や音楽仲間たちに見守られていることに気づいて自分の存在意義を取り戻し、ザザやシグマに慕われて「人間とはなんなのか」を考えるようになり、最後には失っても失えないものの存在に気づく。彼の再生の過程は、人間同士の思いやりと語らいこそが人を生きさせてくれるのだと、そっとささやくように教えてくれます。

 特に『XAZSA ver.2』のクライマックスは、もう「できすぎ!」っていうくらいに快感です!! 初めて読んだときは、「これこそ小説の醍醐味だよ!」って思わず心のなかでスタンディングオベーションしちゃいました。
  『XAZSA』は、人間になりたい機械人間の物語というSFの体裁をとってはいますが、「寂しい若者」たちに「それでいいの? 自分の気持ち、言わなきゃわかってもらえないよ。相手の気持ち、聞かなきゃわかり合えないままだよ」と問いかけている現代小説のような気がします。


JUGEMテーマ:読書
| comments(0) | trackbacks(0) | 04:46 | category: Books |
# ファンタジーとサイエンス・フィクションの中間点

 アーサー・C・クラークつながりで思い出しました、レイ・ブラッドベリ。1920年生まれで、現在も創作活動を続けていらっしゃるようです。ほっとしつつも、そのバイタリティに感服。彼より半世紀近く若いのですから、負けてはおれませんね!
 『華氏451度』『火星年代記』『何かが道をやってくる』『たんぽぽのお酒』といった長編も、『ウは宇宙船のウ』『十月はたそがれの国』などの短編集も好きでした。
 ブラッドベリの作品には、それがSFであれ、幻想文学であれ、アメリカ北東部の古き良き時代の息吹を感じます。ハロウィンや魔女伝説など、アイルランドや英国、ドイツ、オランダなどから移民たちがもたらした「森と霧の文化」が色濃く残る地域。イリノイ州出身のブラッドベリの作品に描かれた不思議や恐怖には、大草原の干し草の香りとヨーロッパ的な情趣の絶妙なミクスチャーを感じて浸ってしまいます。……とはいえ、今は遠き学生時代の話ですが。
 カリフォルニアやテキサス、フロリダ、ニューヨークなどの映像から受けるパワフルなアメリカとは違った、やわらかな日の光のあたたかさとしっとりとした霧に包まれた「もうひとつのアメリカ」の顔を、ブラッドベリの作品から知ることができると思います。

 萩尾望都が「ウは宇宙船のウ」などのブラッドベリの短編を何本かマンガ化していますし(『ウは宇宙船のウ』/小学館文庫)、筒井百々子の「たんぽぽクレーター」シリーズや、内田善美の作品にも影響を感じます。篠崎佳久子の『カミニート』も、ちらっと香りがあったりして好きですね。


 ブラッドベリが描いた不思議や恐怖の根底にあるものはファンタジックかつノスタルジックで、子どものころの思い出のように壊したくない美しいもの、やさしいものを守っているようなイメージがあります。
 それに「えぐみ」を加えたのが、トム・リーミイの『沈黙の声』でしょうか。以下は簡単なあらすじです。
 夏のある日、カンザス州の田舎町に「フリークショー」がやってきました。娯楽の少ない町は、その噂でもちきりです。小人や半獣人「ミノタウロス」、ヘビ女など、神話伝説に生きる者たちを見せ物にしたショーのトリを飾るのは、空中を自在に浮遊する、白い髪に白い肌、赤い瞳の少年「天使(エンジェル)」。姉とふたりでショーを観ていた少女エヴィは、エンジェルに心惹かれます。しかし彼は、ショーの団長である「魔術師」ハーヴァーストックの「力」の源であり、その「力」を搾取されるために生かされ、愛される存在だったのです。
 数日後、ミノタウルスの起こした婦女暴行殺害事件で「フリークショー」は崩壊。ほかのメンバーの手引きでハーヴァーストックのもとから逃げ出し、行き倒れたエンジェルを助けたのはエヴィでした。エヴィは彼をかくまいますが、それはハーヴァーストックとエンジェルとの死闘に巻き込まれることを意味していました。

 エンジェルはアルビノ(先天性色素欠乏症)で、生まれつき声帯がないために声をもちませんが、音波を操る超能力者です。自分を守ろうと必死のエヴィに感謝の気持ちを伝えたいと願った彼は、彼女の鼓膜を音波で震わせることで、意思の疎通に成功します。これが、それまで自分の意志で力を操ったことのなかったエンジェルの、超能力者としての目覚めの一歩となります。
 ハーヴァーストックは、たしか空気をはじめとする四大エレメンツを操り、その強力さ故に「魔術師」と呼ばれているという設定だったような気がします(うろ覚え。エンジェルについての記憶との差は、イコール私の愛の差。今、手元に本がないんですよ)。

 平和な共同体にストレンジャーが入り込むことで起こる波紋の描写は、物語のオーソドックスな題材のひとつ。『沈黙の声』もそのなかの一作品ですが、見渡すかぎり小麦とトウモロコシの畑しかない小さな町が、ひと晩で魔女狩りのようなパニックに陥るさまは、読んでいて恐いくらい。夏の日射しに黄金色に輝いていた大地が、見る見る黒い雷雲に覆われていくようなスピード感と迫力がありました。
 リーミイの作品は『沈黙の声』しか知りませんが、読み返すたびにブラッドベリ的な叙情を感じます。ファンタジーとサイエンス・フィクションの中間点、みたいなところも似ているでしょうか。

 中山星香によってマンガ化されました。でも文字読みで想像するほうが、恐さもえぐみも倍増かな。
 翻訳は、タニス・リーの『銀色の恋人』やマイケル・ムアコックのファン(というか、「メルニボネのエルリック」シリーズファン)にはおなじみの井辻朱美。まあ、いろいろと共通項がね。ついでに、ハーヴァーストックとエンジェルの関係も、はっきりとは描かれてませんが、ソレっぽい。このあたりでクスリと笑える方は、ぜひ、お友だちになりましょう!(笑) サンリオ出版と筑摩書房から出版されましたが、たぶん今は絶版です。

 『沈黙の声』を処女作に、短編集『サンディエゴ・ライトフット・スー』を書き、次の長編作品を出版する前に急逝。『沈黙の声』で相当の筆力を見せたリーミイ。生きていらしたら、どれほどの作品を創られたことかと惜しまれます。

<追記>
予定調和的共通項(今、私がハマっているものとの共通点)
『銀色の恋人』→『TWIN SIGNAL』(A-O オラトリオ)、VOCALOID KAITO
「メルニボネのエルリック」シリーズ→アルビノ→エンジェル
タニス・リー→ソレ


JUGEMテーマ:読書

| comments(0) | trackbacks(0) | 06:20 | category: Books |
# やっぱり猫が好き!『ふちゃぎとエリザベス』(DVD付き)
評価:
宮良 隆彦
サンクチュアリ出版
¥ 1,795
(2007-10-01)
池田あきこさんの『ダヤン、タシルに帰る』刊行記念サイン会に引き続き、またまた猫の本のサイン会に行ってまいりましたv 毎日通っているblog「ふちゃぎん家」のふちゃぎとエリザベスたちが写真集になったのです!
発売は10月1日(ふちゃぎが拾われた日)だったのですが、その前の9月12〜16日にメールでサイン会参加申し込みがあり、即行、送りました。
申し込みが多かったらしく抽選になったのですが、珍しく当たりました! 常々の自分のクジ運のなさを顧みるに、メッセージ欄に写真や動画について熱い感想を書いておいたのがよかったのでしょうか。

有隣堂アトレ恵比寿店にて、14:00からのサイン会にワクワクしながら行きました。
blogなどでは「ふちゃぎの飼い主」こと「ふちゃ主」で知られる宮良隆彦氏は沖縄在住で、お父様は写真家のドイツ人、お母様は元美術教師の日本人。
サイン会に参加申し込みをしたときは、そのような事情を知らず、ただふちゃぎやエリザベス、しゃらく、チロほかの猫たちを、あんなにも活き活きと、それぞれの性格が見てとれるほどに愛情深く撮影された方にお会いしたかっただけだったのですが。
写真集の特設サイトの著者近影を見て、もうひとつ楽しみが増えましたv

いや、本当にテライケメンv スーツが似合うがっしりした体つきに、「この顔でそれはありなのか」と思えるほどに、誠実さがにじみ出ているような方でした。
スタッフに整理券代わりのレシート裏に宛書きを書いておくよう指示されたのですが、それを見て「○○○○○○さんですか?」と呼び方を確認しながら、私の名前とご自分のサインを書いてくださいました。
机の上にもぐらのぬいぐるみが置かれていたので、「これ、ふちゃぎの宝物のもぐらですか?」と尋ねたら、「そうです。エリザベスたちはつれて来れないので、せめてふちゃぎだけはと思って。ふちゃぎの代わりに……」とおっしゃっていました。
1年近くふちゃぎが宝物として、くわえ、なめ、つつきまわし、いっしょに眠り、していたためか、ぬいぐるみのフワフワ感はなくて、色もあせていました。いかにも「愛用の品」な感じ。それに、動画を見て想像していたより小さくて、「ああ、ふちゃぎって小さかったんだ」としみじみ。他人の匂いがついたらマズイかなと思いつつ、指先でちょっと触らせてもらいましたv
握手もしていただきました。私が差し出した右手を両手で包むように握ってくださったのですが、さらっとした、でも熱くて厚くて大きな手の感触が残りました。

「ふちゃぎん家」で、ふちゃぎが8月末に家出していたことは承知していました。出版社のスタッフの方から、東京・立川の猫返し神社(立川水天宮 阿豆佐味天神社)の絵馬に「名前を書いてください」と言われたので、書いてきました。
いつになったとしても、冒険を終えて無事に帰ってきてほしいと思います。

写真集『ふちゃぎとエリザベス』は、DVD付きで税抜1800円(発行:サンクチュアリ出版)。
『ふちゃぎとエリザベス』のサンクチュアリ出版特設サイトは、こちら
情報で、「売り上げカード」にふちゃぎとエリザベスの足形が印刷されていると聞いたので、有隣堂での購入時に「カードもいただけますか」と言ったら、抜かずに袋に入れてくれました。
あとで確認したら、2匹の足形が! かわいい〜v そんな遊び心も楽しいです(知らなければ、見逃す確率100%の遊び心ですが(苦笑))。

この写真集のいいところは、猫という生物が愛らしく、そしてポートレートのように克明に撮影されていることです。猫にまつげがあること、猫の目に涙がたまるようす、顔中を網羅するようなひげの細かさ、そのひげが前後に引かれるさま、仔猫がミルクを飲むとき、耳がピクピク動くさま……細やかな猫の動きが写真に、動画に写されています。
「これだよ! これが猫のかわいさなんだよっ!!」と、のたうち回りたくような写真集。
猫や犬の写真集というと、「人間の勝手で不幸になるペット」「人間に虐待された野良猫や野良犬」「こんなにかわいい動物を捨てる人間をどう思いますか」といったメッセージをもったものがけっこうあります。そういうメッセージ性のある作品も、たしかに必要だとは思います。
でも私は、猫のかわいらしさや、こんなにも性格などに個体差があるといったところを、人間の恣意なく見せてくれるから、『ふちゃぎとエリザベス』を購入する気になりました。
ふちゃぎもエリザベスも捨て猫。彼らの仕種を見ているだけで、捨てたり、虐待したりする人は減るのではないか。こういうメッセージの発信の仕方もあると思うのですが、どうでしょう。

私の生活圏内の書店では見かけないのですが、大きな書店の「写真集」あるいは「ペット」のコーナーに置かれているのではないかと思います。
ご購入の際には、ぜひ店員さんに「売り上げカード、いただけませんか」と言ってみてください。売り上げをPOSシステムで管理している(購入時、書籍のバーコードを機械で読み取っている)お店なら、抜かずに渡してくれると思います。
| comments(0) | trackbacks(0) | 23:40 | category: Books |
# 本当は誰もが知っていてほしい『美人の日本語』

 TVで紹介されているのを目にしてから、気になっていた本を購入しました。『美人の日本語』山下景子(幻冬舎)です。今年3月の初版で、私が購入したのが第8刷ですから、出版元の予想以上に売れているということですね。

 まずタイトルがいいではありませんか。ちょっと背筋が伸びるような感じで。
 それに、1ページに1語ずつ、1年365日分が掲載されていますので、1日1ページ読めばいいという感じで、分厚いけれど、読みやすく工夫されています。ページを繰れば、「ああ、美しい」と感じる日本語が次々に現われます。1ページに簡潔に収められた、その語句の意味やいわれ、そして著者の思い入れ。
 女性の人気が出るのも、当然だなあと思います。

 最近の、サイトやblogからの安易な出版形態には、はっきり言って疑問を感じています。未知なる書き手を発掘したり、あるいは職業文筆家にはない、一般の方や特定の世代に受け入れられやすい表現法や言葉を使った作品を世に送りだしたり、サイトやblogからの出版の効用は認めます。でも、「blogの出版」「人気サイトの書籍化」という売り文句が、どうもお手軽、安易な出版をどんどん加速してしまいそうで、イヤなのです。
 実に個人的な意見で恐縮ですが。

 出版物から校正のプロによる校正の過程がどんどん削られ、間違った表現、間違った語句の使い方が、平気で世に出ている昨今です。「おもしろいから」「人気だから」「売れるから」と出版される書籍に使われている安易で、ときとして有害な表現や語句が、「だってblogの出版だもん」「サイトをまとめたものなんだから、いいじゃん」と許されていくなら、「それって、どうよ」な気になるのは否めません。

 日本語を守る最後の砦は、編集者であり、執筆者だと思うのですが、今はもうそういう意識が薄れてしまっているのが、私には少々怖く感じるのです。

 でも、『美人の日本語』のように、普段使っている言葉の由来や隠された意味を知ることができたり、あまり使われなくなった言葉の美しさを発見したり。さりげなく日本語を再認識できるような本は、メールマガジンからの出版でも、大歓迎です。「メルマガからの出版」を売りにも、言い訳にもしていませんしね。
 辞書ではありませんので、語句の説明文は著者の解釈や思いを基に書かれています。それもまた、選ばれたその語句を「美」ととらえる方の感性に触れることができ、好感がもてます。

 どれも失いたくない言葉ばかり。
 いや、失われると、書き手として困ってしまう言葉ばかり。原稿で「こんな言葉、今の人、意味わかりませんよ」と指摘され、同じ意味の言葉をうんうんうなってひねり出すこと、何度か。熟語などの使用には気をつかいます。その言葉を、漢字で書くかどうかにも迷います。

 『美人の日本語』を読むだけで、365の語句を漢字ともども知ることができます。言葉がわかれば、読む喜びがもっともっと広がります。
 言葉は原点。
 最近、おかしな日本語を揶揄する本が多いですが、日本語の「美」を認識できる本をあえて推したいと思います。


 ところで、私が買った『美人の日本語』。同じデザイン、キラ引き紙のブックカバーが2枚重なってかけられていたのですが、これがこの本の仕様なのでしょうか。持ち歩き用と保存するとき用とか? う〜ん、ナゾです。


JUGEMテーマ:読書
| comments(0) | trackbacks(0) | 03:15 | category: Books |
# 『WOLF'S RAIN 川元利浩画集 SEEKING "RAKUEN"』

 この本を出そうと思ったきっかけは、昨年10月18日に発売した「PALETTA Vol9」で、『WOLF'S RAIN』の特集のために川元さんにインタビュー取材をしたときのこと。「PALETTA」という雑誌は、アニメやゲームのキャラクター造形について、キャラクターデザインをなさった方、あるいは監督などにその成り立ちや裏設定、作業の秘話などをうかがう雑誌です。当然、インタビューも「このキャラクターはどこから思いつかれて、こういう造形になったのですか?」とか、「キャラクターの性格を造形に表わすために工夫されたところは?」とか、細々したことをお聞きすることになります。あらかじめそういった取材の主旨をお伝えしておいたからか、その日、川元さんは『WOLF'S RAIN』のキャラクターデザインを練るのに使ったスケッチブックをお持ちくださったのです。

 B4大で2冊におよぶスケッチブックを見たとたん、一気に体温が跳ね上がりました。そこに描かれたキャラクターたちはどれも、生き生きとした個性をもって息づいていたからです。メインキャラばかりか、脇キャラにも、雑魚キャラにも、ひとりひとりに人生やドラマを感じる、表情や姿勢。ラフとはいえ、きちんと完結された線の美しさと説得力。
 あろうことか、スケッチブックを前に心臓をドキドキさせてしまったのです。

 その場で、ラフ画の「PALETTA」への掲載許可をいただきました。でもしょせん、たくさんの記事の中で割けるページは4ページだけでした。メインキャラはだいたい網羅しましたが、私にはむしろ脇キャラや雑魚キャラのラフのほうが興味深かったのです。それらを掲載するには、1冊の本を作るつもりでないとダメだろうと思いました。
 それから半年以上、しつこくしつこく言い続けてきた甲斐があってか、マッグガーデンで企画をとおしていただくことができ、ようやく私の「夢の本」が発行されることになりました。
 やはりページ数の制限や判型がA4サイズということもあって、B4サイズに描かれた迫力も、そして生の迫力も100%再現することはかないませんでしたが。それでも白地にグレイスケールのラフ画のすべてから、キャラクターの息づかい、そして川元さんがキャラクターを見つめる視線は感じていただけるのではないでしょうか。

 『WOLF'S RAIN』は造形ジャンルとしても、現代風カジュアルあり、20世紀初頭の『アンタッチャブル』系レトロ風味あり、ヴェネチアのマスカレード衣装あり、ネイティヴアメリカンあり、西部劇風保安官あり、ロシアやペルーの民族色あり、チーマースタイルあり、植物でできた人間あり、そしてオオカミありで、非常にバラエティ豊か。ページを捲るたびに違う世界が現れて、決して飽きることはないでしょう。


 かっこいいキバやツメ、ダルシアに萌えていただくもよし。「うわあ、そんな表情しないで〜」のヒゲやトオボエにうふふvとなっていただくもよし。ブルーやシェール、ジャガラ卿ら強い姐御たちに一生ついていっていただくもよし。クエントやハブ、ザリやモスといったどうしようもないおじさまたちに、「男ってどうしょうもないけど、かわいいところあるよね〜」なんて大人の愛を感じていただくもよし。 
 とくに絵を描かれる方には、たくさん学べる要素がつまった本だと思います。めったにないスケッチ画の公開ですし、川元さんから造形のポイントも取材しましたので。

 見かけられましたら、ぜひお手にとってご覧くださいませ。ひと目で「な〜んだ、モノクロのラフ画集か」なんて思っちゃうのは早計ですよ。
 私が最初にスケッチブックを見て感じた感動を、手にとってくださった皆さんが感じてくだされば、長い間、思い続けてきた甲斐もあろうというものですv


JUGEMテーマ:漫画/アニメ
| comments(0) | trackbacks(0) | 07:29 | category: Books |
# 『武士道 BUSHIDOU』新渡戸稲造

 新渡戸稲造……その肖像は1984年から流通している五千円札に刷られています。とはいえ、今年の紙幣刷新で樋口一葉に変わるそうですが(戦後5回目の紙幣刷新で、女性が登場するのは初めて)。ちなみに千円札は夏目漱石から野口英世に変更。一万円札の福沢諭吉はそのままだそうです。
 偽造紙幣が増えたため、それを防止するための刷新。新紙幣には、二千円札なみに、「透かし」や肉眼では判別できないくらい小さな「マイクロ文字」、見る角度によって像が変わる「ホログラム」、棒状の模様を透かしで入れる「すき入れバーパターン」などが盛り込まれるそうです。
 って、お札の話がしたいのではなく。

 新渡戸稲造は1862(文久2)年に生まれ、1933(昭和8)年に逝去。明治から昭和初期の思想家であり、教育学者。盛岡南部藩(岩手県)の藩士の家に生まれ、札幌農学校(現・北海道大学)を卒業後、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学、ドイツのボン大学に留学。農政、農業経済学などを学びます。
 1891(明治24)年、メリー・エルキントンと結婚。帰国し、札幌農学校、京大、東大の教授などを務め、1918(大正9)年に東京女子大の学長に就任。1920(大正9)〜26(大正15)年まで国際連盟の事務局事務次長を務めました。
 1900(明治33)年、病気療養のため渡米していたころに、英文で執筆し、アメリカで出版した著作が『BUSHIDOU THE SOUL OF JAPAN』です。
 もっと詳しく生涯を見ていけば、なかなか劇的な人生を歩まれた方とわかります。当時の日本人には珍しく、海外を縦横に渡り、活躍されていたことも知れます。しかし私が何より驚嘆したのは、外国人に日本を理解してもらいたいという、新渡戸氏のその情熱と方法でした。

 私が購入した『武士道』は、英文に現代日本語の対訳がついているものです。嬉しいのは、訳者である須和徳平が、新渡戸氏が当時の当然の知識として略称したり説明をはぶいているところを、我々にもわかるように書名や人名をきちんと付加してくれていること、また訳注もつけて、なぜ新渡戸氏がそれを引用しているのか、故事などを詳述してくれていることです。

 これを読めば、いかに新渡戸氏が外国の宗教や文学、比較文化論に詳しかったかがわかります。「武士道」の、例えば「礼」はキリスト教のこの教えに似ている、「忠義」はシェイクスピアのこのセリフで表現された感情と同じであるなど、ひとつひとつを、西欧人がよく馴染んだ言葉や宗教的教義に置き換えて説明しています。それも、決して西欧の考え方と武士道は似ているのだ、とのみ説くのではなく、民族の教えの根源は「人間としてのあり方」を問う道徳の部分で同じであり、西欧も日本も「人間としての本質」は変わらないと述べています。そのうえで、武士道が西欧の慣習より優れている点、また至らない点も分析し、客観的に論理的に「武士道」ひいては「日本」を紹介しているのです。

 読みながら深く共感し、その冷静かつ論理的な文章に感嘆しました。また、今の日本が失ったもの、いや、隠してしまったものが、いかに重要なものであったかを思い知らされました。「人としてこうでなければならない」という、常にもやもやと思い続けていることと、実際の態度がなぜこれほどに乖離してしまったのか。「社会がそうなんだから」「みんながそうなんだから」と言い訳しながら、いったい我々はどこの淵に堕ちてしまったのか、突き付けられたような気がします。

 人を説得するロジックも学べる、大変有意義でお得な本。「武士道」ブームで、新渡戸稲造の『武士道』も対訳つき英文書から文庫本から解説書まで、書店でさまざま平積みされています。この機会にぜひ一度読まれてみてはいかがでしょう。『ラスト サムライ』の勝元とはまた違ったタイプの、美しい日本人の存在が感じられます。


JUGEMテーマ:読書
| comments(2) | trackbacks(0) | 17:07 | category: Books |
紹介作品の詳細は……
blog内の「画像」あるいは「作品タイトル」をクリックすると、Amazon.co.jpの作品紹介ページに飛びます。
Search this site
Categories
Profile
Recommend
煌 中嶋敦子画集
煌 中嶋敦子画集 (JUGEMレビュー »)
中嶋 敦子
目の覚めるような煌めきの世界が、この一冊に! 『艶』と同じくイラスト一点一点に中嶋氏のコメントつき。『トリニティ・ブラッド』『プリンセス・プリンセス』『逮捕しちゃうぞ』の3作品については、アニメ制作に携わられていたときのエピソードを含めたインタビュー記事も収録。ベテランアニメーターの、作品やキャラクターへのあふれる愛を感じてください。
Recommend
カズキヨネ画集 -斬華-
カズキヨネ画集 -斬華- (JUGEMレビュー »)
カズキ ヨネ
アイディアファクトリー制作の乙女ゲーム『緋色の欠片』『翡翠の雫 緋色の欠片2』などのキャラクターデザイナーであり、イラストレーターでもある、カズキヨネの初画集。華麗で、「萌え」のつまったイラストの一点一点をご堪能ください! 「狐祭り」、最高!! カズキ氏のイラストに対するコメントや、画業についてのインタビューも、ぜひ読んでくださいね。
Recommend
由良 ARTWORKS -LIGHT SIDE-
由良 ARTWORKS -LIGHT SIDE- (JUGEMレビュー »)
由良
『由良ARTWORKS -DARK SIDE-』の下巻。『DARK SIDE』はボーイズラブゲームでまとめましたが、『LIGHT SIDE』は乙女ゲーム『乙女的恋革命★ラブレボ!!』のイラストから男性向け美少女ゲーム、最近のボーイズラブ作品を少々、そして“幻の企画”まで、由良氏がさまざまなジャンルで描かれてきたイラストを網羅。もちろん、コメント付きです! さらに携わられたゲームについて、作品ごとにインタビュー。10時間インタビューの成果や、如何に!? それは本書でご確認ください。
描き下ろしイラストのステキな箱には、『DARK SIDE』『LIGHT SIDE』両方が収納できますv
Recommend
由良 ARTWORKS -DARK SIDE-
由良 ARTWORKS -DARK SIDE- (JUGEMレビュー »)
由良
『冤罪』『帝国千戦記』『絶対服従命令』などのボーイズラブゲーム、およびダイエット乙女ゲーム『乙女的恋革命★ラブレボ!!』のキャラクターデザイナー・原画家で知られる由良氏の初画集です。12月に発行予定の「LIGHT SIDE」と2分冊の上巻。
「DARK SIDE」は『冤罪』『帝国千戦記』『絶対服従命令』の厳選イラストを収録。各作品の最新描き下ろしイラストに、3作品の主人公をシャッフルした「この本だけの」描き下ろし口絵あり。
そのうえ、各イラストに由良氏のコメントありで、内容充実の1冊です!
Recommend
永久保存版 完全ボーイズラブゲームガイド
永久保存版 完全ボーイズラブゲームガイド (JUGEMレビュー »)

1999年の開発開始から、ボーイズラブ(BL)ゲームのすべてを網羅したガイドブック。特に一世を風靡した人気作品はカラーページでクローズアップ! 表紙はBLゲーム原画家である由良&たたなかなの合作描き下ろし。また由良&たたなかな対談や淵井鏑、ゆりの菜櫻のインタビューも収録。
「BLゲームってどんなジャンル?」「BLゲームってどんなタイトルがあるの?」という初心者向けのカタログムック本です。BLに興味のある女性はもちろん、男性の方で「知りたい」という方にもオススメ! ただし肌色多めなので、要注意。
Recommend
TALES いのまたむつみ画集
TALES いのまたむつみ画集 (JUGEMレビュー »)
いのまたむつみ
RPGとして不動の人気を保つ『テイルズ・オブ・デスティニー』『テイルズ・オブ・エターニア』『テイルズ・オブ・デスティニー2』のキャラクターデザインを務めたいのまたむつみの『テイルズ』イラストを網羅。見逃したイラストもきっとココにあるはず! キャラクター造型やイラストの描き方について、コメントやインタビューもバッチリ収録。紙や印刷にもこだわってます。時間をかけただけのクオリティを堪能してください。
Recommend
WOLF'S RAIN SEEKING
WOLF'S RAIN SEEKING "RAKUEN" 川元利浩画集 (JUGEMレビュー »)
川元 利浩
アニメ『WOLF'S RAIN』のキャラクターデザインを務めた川元利浩の初画集。カジュアル、レトロ、ヴェネチアンマスカレード、ネイティヴアメリカンと、さまざまなモードジャンルから組み立てられたキャラクターたち。もちろん、オオカミの造形も要チェック! 川元ファン必携の1冊!
Recommend
艶−中嶋敦子STYLE−
艶−中嶋敦子STYLE− (JUGEMレビュー »)
中嶋 敦子
「艶のあるキャラクター」といえば、今、注目の中嶋敦子! 『逮捕しちゃうぞ』『GetBackers -奪還屋-』ほか、『PEACE MAKER鐵』『王ドロボウJING』など、思わず目も心も奪われる美麗イラストが満載! インタビューや各イラストへのコメントから、そのスタイルを探る!
Recommend
指先にくちづけて―パラケルスス・パラミールム
指先にくちづけて―パラケルスス・パラミールム (JUGEMレビュー »)
伊藤 智砂
16世紀に実在した、稀代の錬金術師にして医学の革命児、パラケルスス(テオフラストゥス・ホーエンハイム)をモデルにした「BL(ボーイズラブ)小説」です。
パラケルススと、彼が作り出した小さなホムンクルス「ヘルメス」は流浪の旅を続ける相棒同士。スイスのバーゼルに立ち寄った彼らは、町の有力者にして出版王フロベニウスに出会います、そのときから、なんだか二人の関係がおかしくなってきて……。
異端視され、火炙りの危険にさらされながらも、ヘルメスを手放せないパラケルスス。そんなパラケルススを守りたいと思うヘルメスは、パラケルススの危機に絶体絶命の手段を取ります。
史実をご存知の方には、パラケルススの「ヘルメス信仰」ってそういうこと? と思っちゃえるかもしれません(笑)。
※ BL的な表現や描写がありますので、苦手な方はご遠慮ください。
Recommend
TVアニメーション鋼の錬金術師コンプリートストーリーサイド
TVアニメーション鋼の錬金術師コンプリートストーリーサイド (JUGEMレビュー »)
スクウェアエニックス
『鋼の錬金術師』アニメ全話を徹底解説! まさにコンプリートな1冊です。特にアニメの『鋼』世界の設定を考察した「『鋼の錬金術師』徹底研究レポート」は、ファン必読です。
Recommend
TVアニメーション 鋼の錬金術師 キャラコレ
TVアニメーション 鋼の錬金術師 キャラコレ (JUGEMレビュー »)
スクウェア・エニックス
アニメ版『鋼の錬金術師』に登場する80余名のキャラクターを一挙にご紹介。各キャラの名セリフや特別な人間関係などを、アニメのシーンもいっしょにピックアップしています。
「このキャラってどういう人物だっけ?」と思ったときに、手軽にチェックできる1冊です。
Recommend
魔探偵ロキRAGNAROK PERFECT GUIDEBOO
魔探偵ロキRAGNAROK PERFECT GUIDEBOO (JUGEMレビュー »)
木下 さくら
『魔探偵ロキ』『魔探偵ロキ RAGNAROK』の世界をキャラクターの魅力分析やストーリーダイジェストで完全ガイド。作品に対するこだわり部分やカラー画集にリンクしたイラストコメントなど、「作者の声」がたっぷりつまった1冊! 描き下しイラストに、学生になっちゃった『ロキ』メンバーのコミック、アニメ版スタッフや声優のコメントもありの「ぎっしり」ガイドブックです。
Comments
Trackback
Mobile
qrcode
Sponsored Links

 レンタル掲示板,レンタル日記,レンタルブログ「大宇宙」